山深い奥会津では、
昔から狩猟が行われてきました。

「猟は誰でもできた。おれもマタギになる前から親父について山に行ったし、イタチなんか獲って小遣い稼ぎをしてたよ」

それでも、マタギになった当初はクマばかり追いかけていたという猪俣さん。
とにかく獲りたくてあちこちの山を駆け巡りました。
 
「今まで仕留めた中で一番でかかったのは230キロ。クマは頭がいいから、こっちの考のウラをかくなんてしょっちゅうだ」
 
猟が上達するコツは「めちゃくちゃ失敗すること」。
しかし、そのすべてを経験に、猟に関することはもちろん、山の地形や植生、動物たちの生態系まで、この地の山の情報はすべて猪俣さんの中にインプットされています。

マタギの世界はとても閉鎖的。


技術はもちろん、彼らが山で行う作法、山で使う言葉は人に話してはいけないとされてきました。
しかし、猪俣さんはできるだけ昔のままのしきたりを踏襲しながらも、希望者を山に連れて行ったり、さまざまな体験談を語って聞かせたりと、自らの「マタギ」としての生き方を積極的に伝えています。  
「そうでないと、マタギの心もつないでいけない」
 
現在、まちでただひとりのマタギとなった猪俣さんの目下の心配は、山の環境の変化。
特に、雪の少なかったこの冬(2020年)は異常でほとんど熊が冬眠することなく、山を歩き回っていたそう。
経験にないことが起きている、自然が変わりはじめていることを肌で感じています。
手遅れにならないうちに、人間にできることとは。
山や森を愛し、生き物の命の重さを誰よりも知る猪俣さんの目は不安の中で未来を見据えています。