日本一山奥の出版社。
そう呼ばれる場所が奥会津・三島町にあります。
1997年の設立から20年あまり。
「奥会津書房」は会津に生きる人々の声に耳を傾け、教えを請い、その記録を本に残してきました。
代表の遠藤由美子さんが語る、本を作る理由はとてもシンプル。
昭和村でからむし織の原料となる苧麻の栽培に携わるおじいさんがする朝の儀式、都会から会津に嫁入りした女性が書いたお正月料理の記録。
本当なら誰にも知られることなく、埋もれてしまうような事柄にこそ、伝えたい奥会津の精神があると信じ、本を作り続けてきました。
もっとも伝えたいのは「自然と人間は共生できない」というメッセージだと遠藤さん。自然を傷つけることでしか生きられない人間は、自然と向き合う作法や祈りで、何とかその折り合いをつけてきました。
「奥会津で行われるさまざまな行事に立ち会い、そのたびに『人間は小さい。だから神様、お願いします』という切なる願いや、おごりを律する敬虔な姿を見てきました」
美しい自然に抱かれているようで、その自然は決して人間の意のままに操ることはできません。
奥会津の人はそれを知っているから、畏れ、敬い、身を低め、暮らしを成り立たせてきたのです。
自然との向き合い方から伝わる、奥会津の人々の精神性を伝えたい、というのが遠藤さん編集方針です。

「作っておけばいつか誰かが読んでくれるかもしれない。もう亡くなってしまった人の言葉にもきっと出会ってもらえる。いつか、この地域について知りたいと思った人の手がかりになるかもしれない」
しかし、そんな遠藤さんも東日本大震災に際し、一時、本を作る事をやめました。
「本を作ることなど何の意味もない」
そう思ってしまうほどに自然の力は圧倒的で、これからは地域の先人に学んだ自然との関わり方を実践する時、と感じました。
しかし3年も経てば、もう経済優先、大量消費の世の中に逆戻り。
生き方を再考すべきパラダイムシフトは起こりませんでした。
もう一度「言葉」を信じて、編集途中のままだった『会津学』という地域誌を発刊し、再び活動がはじまりました。
奥会津は「見えない力を肌で感じて、大切にする精神性が残ってる稀有な地域」だと遠藤さんは言います。
そんな土地に暮らす人の営みに深く深く潜り、暮らしや生き方を丁寧に記録することだけ。
その潔さに「奥会津」の名前をいただく出版社の覚悟が見えました。